潜在待機児童数が360万になるには
http://blogos.com/article/59340/
石川和男氏が潜在待機児童数を360万と見積もられています。
最近の待機児童問題のニュースにおいても、ヤフーなどから頻繁にリンクされています。
これを見るたびに数字の大きさが怪しさを呼んでもったいないなと思うわけで、その点をつらつらと書いてみます。
私は、保育園全入論者がいる以上、360万という可能性はありえるラインだと思っています。
まず、石川氏の理論の穴について。
厚生労働省の「家族類型別一般世帯数の調査」によれば保育を必要としている可能性がある世帯は、「夫婦と子どもの世帯」である385万1000世帯、「男 親と子どもの世帯」である1万4000世帯、「女親と子どもの世帯」である21万7000世帯を合わせた408万2000世帯。
ここの部分は統計データとして挙がっています。
http://www.stat.go.jp/data/nihon/zuhyou/n0200900.xls
この見方ですが、例えば父親が単身赴任をした場合、単身世帯+母親と子どもの世帯の2世帯としてカウントされたはずです。
これに一人親の世帯を足すと、
と後で単純に「母子世帯の母親は、必ず働きたいものとする」という仮定が少し誤差を生みます。
片親でも、慰謝料や保険で子どもが小さいうちは食べれる人もいるでしょうし。
でも、これは全体で言えば誤差だと思います。
次に、こっちが前のに比べて比較にならないほど大きいのですが、
子どもを持つ世帯の1世帯当たりの子どもの数は1.84人なので、317万7千世帯に584万5千人の子どもがいることになる。
この、1.84について
- 6歳未満のいる世帯数は487万世帯(前記統計)
- 6歳未満人口は636万人(平成23年度国勢調査、0~5歳合計)
というデータがあります。すると単純に割って
- 636/487=1.30
この差の0.54を説明すると
6歳未満の世帯員を含む家庭のうち、子どもが複数いる家庭があって
- 65%は兄弟が小学生以上である
- 35%は6歳未満が複数いる
と言えるわけです。
なので、×1.84から計算した数字を基に待機児童を計算すると、
- 小学生以上も待機児童としてカウントする
という事態になります。
これを1.3で計算すると、1.84の計算から170万人減ります。
これを単純に差し引くと、潜在待機児童は190万人と試算できます。
「夫婦と子どもの世帯」である385万1000世帯のうち、母親が働きたい確率は、女性の就業希望率76.5%を乗じた294万6000世帯と仮定できる。
の仮定と、
「働きたい人は産休直後から働きたい(育休は考えない)」
「就業希望率は、幼稚園では間に合わないレベルで働く人を基本とする」
「幼稚園在園率(3歳以上50%)と就業希望率の差26.5%(約80万人、幼稚園児の半数)は、潜在待機児童である(働きたいけどフルタイムで働いていないなどとみなす)」
という考え方においては190万人となります。
最大値を試算という意味では、現実的な数字だと思います。
360万人と比べて少ないですが、議論の質が変わるほど、桁が変わるほどの差ではないのは間違いありません。
ですが、360万では、よっぽどの説明をつけない限り「人口統計を見ろ」と言われて本質を見てもらえなくなることを危惧しました。
実際の状況について
http://www8.cao.go.jp/shoushi/10motto/08kosodate/wg/youho/k_8/pdf/s1.pdf
のP.3に示されているように
0~2歳 323万8千人中、保育所に79万4千人在所
家庭等の「認可施設以外」で保育されている子は244万4千人
3~5歳 330万5千人中、保育所に134万4千人、幼稚園に167万4千人、
家庭等の「認可施設以外」で保育されている子は28万7千人
無認可は、おそらく認証保育園なども含めてその他に入っているはずです。
個人的な予想ですが、
- 3歳と4歳の幼稚園の人数差15万人は、公立に入りたい、発達上などの諸般の理由であえて1年就園していない人
- 5歳の未就園の2%は、へき地保育所や無認可保育所など、認可にカウントされない保育所に在園している子(統計上でも2万人ぐらいいる)
だと思います。
ここから、保育所全入の場合どうなるかを考えると
- 未就園児が273万人、うち未満児244万人
- その年度に生まれた子も産後8週から保育所に入るとすると、0歳児+80万人
- 幼稚園児を100%待機児童とすると+160万人(但し、すべて3歳以上)
よって
幼稚園児を除いて350万~幼稚園の扱いで500万人の潜在待機児童
というのが最大数だと考えます。
私自身はツイッターは毒吐き場だと思っているので、上から目線のつぶやきが多いですが、そんな書き込みでも誰かのきっかけになれば幸いです。
1/5 20時追記
単純に、0~2の人口(約320万)×就労率(75%とする)-現園児数(約80万)=160万
ここに3歳以上の(幼稚園等にいる)潜在待機児童を加えると200万付近ですね。
石川氏の「片親家庭の誤差をできるだけ正確に見積もる」アイデアは含まれないですが、政策提言には十分な精度のはず。
ちなみに、潜在待機児童200万説はほとんどが未満児なので、最低基準での必要保育士数が30~40万、正職員初任給年収350万(事業所負担400万)でまかなっても、8時間開所(8時間保育ではない)のために1.2~1.6兆円かかります。
現実的に11時間開所とかやるとこの倍は必要だし、最低配置数ではまともな保育は無理となると+αは必要。
労働力活用や保育のインフラ化を目標に、保育園全入を目指す主張(潜在待機児童300万以上)だと、おそらく5兆クラスが最低ラインになります。箱とかではなく、毎年かかる人件費等の運営費だけで。
ちょうどこれを書いているときのTLに、「公立保育所の公務員保育士平均年収800万は高過ぎ」みたいなのが流れてきましたが、次世代を担う子どもの命を預ける仕事に、350万でも高いとか言い出す人がいないことを願います。
合わせて、保育のインフラ化を目指す人が、最低限このレベルは支給したうえで事業拡大していることを。